「人が亡くなった後にどうするべきか」というのは大きな問題です。
そんなときに頼りになるのが、専門家が書いた本です。
ここでは、終活カウンセラーが選ぶ有用な本3冊を、公平な目線で紹介していきます。
「実家の片付け」内藤久
タイトルが少し複雑なのですが、正しく表記するのなら、「図解 親ともめずにできるこれがリアルな実家の片付けです」になるでしょうか。
今回紹介する3冊の本のなかでもっとも表記が平易で、わかりやすいのがこの本の特徴です。遺品整理にまったく知識のない人であっても、すらすらと読めるでしょう。
基本的には「感情に寄り添う」というかたちで書かれた文章が続くため、抵抗感がなく読めます。そういった意味でも、非常に優しく易しい本だと言えるでしょう。
とにかく読んでいてストレスがないので、身内の死が迫っていて心情的につらいけれども勉強しておかなければ、と考える人に向いています。
イラストや図がふんだんに使われており、まんがもそこかしこにはさまれています。
また、遺品整理だけでなく、生前整理についても詳しく書かれています。生前整理や遺品整理における感情的なしがらみに対してどのようにアプローチしていくべきかが易しく説かれており、「このようにして親の気持ちを理解していけばいいのか」「親を亡くした後、兄弟間での話し合いはこうすればいいのか」ということがわかります。
空き家の問題点などもしっかりと書かれています。
この本は、全体的に、「遺品整理のことがまったくわからない」「空き家のままに置いておいて、何が問題なの?」「親のことは、早く説得して生前整理を促せばよい」と考えている人におすすめの本だと言えます。
つまり、まだ、遺品整理のことやそれにまつわる問題などについて「自分のことだ」と肌で感じ取ってはいない人向けだと言えるでしょう。問題提起ができる本といってもよく、優しい口調で書かれているため抵抗感もありません。
ただ、「感情に寄り添うこと」「問題を、問題と気付けること」を重点においた本であるため、「具体性」「実務性」という意味では、ほかの2冊に少し劣るかもしれません。
遺品整理や生前整理の入門編として読むとよい本ではありますが、これ1冊だけで、「親が亡くなった後のすべての始末」「親が亡くなった後の相続」を知るには少し無理があります。ほかの本と一緒にあわせて読みたい1冊だと言えるでしょう。
「親の家をどう片付ける」上東丙唆祥
「遺品整理」に特化した本としておすすめしたいのがこれです。
まさに「遺品整理」に悩む人のための本といってもよく、親が亡くなった後の「困った!」を解消してくれる本だと言えるでしょう。
この本の特筆すべきところは、数字が具体的であることです。時間や費用などがすべてわかりやすい数字で書かれており、目安をつけるために有効です。
また、「どのように片付けていくべきか」「どんなことをしたらいいのか」「どんなやり方をしたらいいのか」の指示が非常に具体的であり、象徴的な言い回しがほとんど使われていないのが特徴です。
「実務について知りたい」という人にとってはかなり使いやすい本だと言えるでしょう。
片付けの順番や、大きな家具などをどうやって処理したらお金がかからずに処理することができるかなどの記述は、一度は目を通しておいてほしいものです。
また、「遺品整理のときにありがちな問題点」についても、具体的に解決策を示しています。
「リース品はどうするべきか」「捨てるべきか捨てないべきかを迷った際にはどうするのか」「写真の片付け方」「個別の物品の処分方法(CDをどう処分すべきか、花瓶の処分方法は?など)」がしっかりと書かれており、とにかく「手引書」として頼りになるでしょう。
一種のマニュアル本だと考えてもいいかもしれません。
やや個人的な主観や主張が見て取れるものの、「親の気持ちに寄り添う方法」「親があとあと不満を抱かずに済む生前整理の方法はどんなものなのか」についても触れています。
加えて、「高齢者施設に行くときの整理の方法」などについても書かれており、「整理をしなければいけないあらゆるケース」を網羅して解説しているという点で、非常に有用な1冊です。
先に挙げた1冊とセットで読んでいくと、お互いの足りない点を補いあうことができるのではないでしょうか。
読みやすさとしては、文字は多いものの、表現は難しくないので読みやすいです。
ただ、一つ問題があります。
これを書いている著者の運営する会社は、遺品の処分に必要な資格である「一般廃棄物収取運搬業」の資格を得ていないように見えるのです。少なくとも、公式のサイトにはその表記が見当たりません。
このため、「本の中身は信頼できても、資格がないであろうことをどう考えるか」という問題が出てきます。また、これはあくまで個人的な主観にもよりますが、内容の記述を見るに、少し著者の主張がきつすぎる、と感じる人もいるかもしれません。
「遺産相続」中村美希
これもどこからどこまでがタイトルかわかりにくいのですが、正式なタイトルは「あなたも家族も安心できる遺産相続 手続き 税金 生前対策」となるでしょうか。
これは、先ほどまでにあげた2冊とはまったく意味が異なる本です。しかし、非常に重要なことを述べている本でもあります。
これは、たしかに「遺品整理」についても触れているのですが、その主題となるのは、「遺産相続」です。
遺品整理によってでてきたもの(美術品など)をどのようにしてわけて、どのように相続するのかなどについて触れています。
また、「そもそも相続とはどういったものなのか」「相続税のかかり方」「相続税を安くあげるためにはどのような工夫があるのか」「家を相続するときの基本」「相続税がかからないものとはどんなものか」などについても詳しく触れられています。
特に、「家の相続」については、家や土地の在り方で変わってくることなどについて詳しく述べられており、非常に細かく、しっかりと書かれています。
このようなことからもわかるように、この本は、「相続」について書かれたかなり専門的な1冊です。
もちろん相当わかりやすく書かれてはいるのですが、まったく相続に興味や知識がない人が、1回だけ読んだというだけでは、その中身を理解しきることは難しいでしょう。
「感情的なゆらぎ」をほとんど廃した文章が続き、「故人の感情や、遺族の気持ちを重視した展開」はあまりきたいできません。
「難解な『相続』というものをわかりやすく解説すること」だけを目的としています。
その分、その内容の濃さは驚くほどです。
知的でわかりやすく解説することに焦点を当てていること、具体例などがしっかり盛り込まれていることから、かなり勉強になります。
遺品整理は、たしかに「感情」によるところが大きいものであることも事実ですが、それだけではなかなか整理は進みませんし、的確で作業もできません。この本は、そんな問題を解決するために役立ちます。
ほかの2冊とは毛色がまったく異なりますが、相続を考えるうえで知っておかなければならない情報がしっかりと盛り込まれた良書です。
ここで紹介した3冊は、私自身が読んでみて、おすすめできると判断したものです。しかし、当然それぞれの本には欠点もありますし、本は相性もあるものです。
ただ、「どんなものを読んで良いのかまったくわからない」という人は、これらを手に取ってみてもよいのではないでしょうか。